本記事の説明・目的
本ページは、[メタ事例]コミュニケーションの目的は情報伝達だけではないの後継記事として前回の内容を振り返り、事例集の数々の記事と心理学的知見を交えながら人間関係の維持構築に役立つアイデアを示すものである。
内容は以下のとおりである。
第一章:雑談には意味がある
第二章:自己開示をしよう
※本文中でいくつか記事紹介をするが、エミュレートに成功しているものには(成功事例)、失敗しているものには(失敗事例)と付け加えている。
第一章:雑談には意味がある
先ほど挙げたメタ事例では、情報伝達を目的としないコミュニケーションがあることに触れた。
またその目的が、自分に有利な結果を引き寄せたりその場を穏便に済ませたりして、人間関係をうまく構築・維持していくことにあると説明した。
本章では、「情報伝達を目的としないコミュニケーション」の代表例である雑談がどんなプロセスで人間関係の維持構築に繋がっているか、経験知をもとに考察する。
*
雑談で注目すべきは、話す内容の情報的価値ではなく、雑談行為そのものの効用である。
すなわち「雑談ができる人間」であると示すこと、相手に敵意がなく、むしろ相手に対して仲良くなりたいという積極性を持っていると示すことである。
そして雑談を通して自己開示し、相手に関しても理解を深めることで、長期的に友好な関係を築ける。
プロセスとしては、
1. まず敵意の無いこと、一般的な会話ができる人であると示す
- 職場では常に雑談をしている理由がある(失敗事例)
- 会話についていけないときはせめて相槌だけでも打ったほうがよい(成功事例)
- 雑談では必ずしも正確な真実を伝えなくてよい(成功事例)
- 部活の後輩とのコミュニケーションを怠ってはいけない。(失敗事例)
2. 次に、互いの人となりや価値観を開示し相互理解を深める
- 初対面の人に自分のことを質問されたら同じ質問を相手に聞き返したほうがいい(成功事例)
- 友人には積極的に悩み相談をした方が良い(成功事例)
- 相手と仲を深めたければ、食に関する話題を振るといい(成功事例)
食・趣味・家族・ペットの話 題はかなり有用だと筆者は考える。
- 久しぶりに再会した友人に、自分語りをしすぎてはいけない(失敗事例)
- 会話するときに質問ばかりしてはいけない(失敗事例)
相互に行うこと(=Give and Take)が重要で、片方だけが話すような状況は不適切。
3. 結果的に親密度が深まり、長期的な友好関係が続く
という順番であろう。実際はもっと複合的な要因で親密度は変わるが、概要としてはこうである。
ただ、話題は選ぶべきだ。
- 雑談においては「話題」を選ぶといい(成功事例)
- 雑談の話題は慎重に選ぶべき。(失敗事例)
- オンライン飲み会の場で鬱状態の時に首を吊ろうとした話をしてはいけない(失敗事例)
そんなに親密度が高くない人たちの前で、重すぎる(深すぎる)話題をするタイプの失敗が多い。
締めくくりとして、参考記事をいくつか紹介する。
① より高度なコミュニケーション
相手が知りたいのはあなたの趣味に関する具体的知識ではなく、あなたの人となりや価値観、行動様式である、ということを的確に見抜いており示唆に富む。
②コミュニケーションがうまくなる具体的方策
場数を踏むのは大事。飲み会は貴重な練習場。
会話はキャッチボールとよく言われる。相手の負担を考えてコミュニケーションが取れている。
第二章:自己開示をしよう
本題に入る前に、前提となる知識を共有しておきたい。
印象は、自分でつくることができる。健常者エミュレートなどは最たるものだ。
「他者から肯定的なイメージ、社会的承認や物質的報酬などを得るために自己に関する情報を相手に伝えること」を自己呈示という。言葉だけでなく、身振り手振りも含む。
ここで気を付けておきたいのは、嘘が混ざる可能性があることだ。
自己呈示は、見せたい自分を演出して見せる事なのだ。
*
一方で「他者に対し、誠実にありのままの自分に関する情報をことばによって伝えること」を自己開示という。
自己開示は相手と仲良くなるうえで必須であり、また開示するうえで感情を整理するなどして、自分自身の心にも影響を及ぼす。(cf.Jourard,1971)
*
そんな自己開示について良く知られているのが「自己開示の返報性」だ。
成る程私たちは、相手との親密さの度合いに応じて、浅い自己開示から深い自己開示までさまざまに行っている。
この自己開示の返報性で押さえておきたいのは、返されるのは同じ程度の自己開示だということ。
深刻な悩み・家庭環境・病気について話したら、相手も同じくらい深刻な悩みを話してくれるし、表面的で当たり障りない話しかしないと、相手も表面的な話しかしてくれない、といったことだ。
*
自己開示の返報性を説明する要因はいくつかあるが、筆者が注目するのは「社会的交換理論」による説明だ。
ものを贈られたら何かお返しをしなければ、という規範が私たちの社会には存在していて、対人的なやりとりも一種の報酬であるから、贈られた自己開示に対して同じ程度の自己開示が返されることになる。
あとは、単純に好意には好意を返す、というケースである。相手が自己開示してくれたのは自分に好感を持っているからで、嬉しいから好感の表れとして自分も返す。
*
以上の内容から、誰かと仲良くなるためには自分から自己開示をすること、そして相手の自己開示のレベルに合った自己開示を返すことが大事だといえる。
相手ともっと仲良くなりたければ今までより少し深い自己開示をする、という応用方法がある
エミュレートするには、
1. 相手との親密度を認識把握する(数値化すると分かりやすいかも?)
2. 自己開示ネタをいくつか用意しておく
3. 親密度ごとに、開示するネタをどれにするか振り分けていく
4.現実場面で実践
の流れが 良いと筆者は考える。
健エミュの記事を見ていると、1・2・3それぞれの段階で躓いているケースがあった。
*
親密度の認識がもし相手とずれていたら
- 重いエピソードを自虐ネタに使ってはいけない(失敗事例)
自己開示ネタの用意
- 自己紹介は、事前にテンプレを考えておく(失敗事例)
- 自分の考えを整理したいなら「ひとりインタビュー」をしてみる(成功事例)
親密度に合わないネタ
*
他にも抑えるべきポイントは以下の通り。
親密度の異なる複数人との会話は注意
- 暗い話でウケを狙うべきではない(失敗事例)
極端に自分のことを秘匿する(返報性を守らない)ケース
- 全ての会話を愛想笑いで終わらせてはいけない(失敗事例)
(相手は仲良くなろうと積極性を発揮しているのに「言葉を返さない」のはNG)
- 自己紹介を名前だけで終わらせてはいけない(失敗事例)
なぜ秘匿してしまうのか。ネタがない、話すことが嫌、うまく話せない、慌ててしまうなど、自分の原因に合わせて対応するとよいだろう。
総括
本ページでは、「雑談」と「自己開示」という二つのテーマから、人間関係構築、よりよいコミュニケーションのための知見を考察していった。
*
第一章では、雑談の目的を解説した。
まず自分が危険な存在ではないこと、落ち着いて簡単な会話ができること、相手に興味があって仲を深めたいことを示し、徐々に互いの人となりや価値観を理解するフェーズへと話題を移行、親密度を深めるに至るというプロセスを紹介した。
*
第二章では、自己開示の効用および、自己開示の返報性について解説した。
自己開示は相手と仲を深める上で必須であり、浅い自己開示には浅い自己開示が、深い自己開示には深い自己開示が返ってくること、
さらに、相手との親密度を把握したうえで、親密度に合った自己開示をすること、親密度とあまりにもかけ離れた自己開示をしたり、返報性を守らなかったりすると相手との関係が壊れかねないことなどを説明した。
*
ふたつの章で共通することは、相互理解が人間関係構築において重要だということ。
「理解」といっても、理解するのはあくまで相手自身にまつわること(相手の人となり、価値観、行動様式、好みなど)である。
コミュニケーションにおいても、互いへの理解が目的だと意識するだけで、行動が違ってくるのではないだろうか。
人間関係構築・コミュニケーションの目的は「相互理解を深めること」にある。
当たり前に聞こえるかもしれないが、実践するためにはたくさんの気配りや試行錯誤が必要である。ともに頑張りましょう。
備考
- 誤字脱字、内容の疑義等ありましたら訂正いただけますと幸いです。
- 記事中、健常者エミュレートを自己呈示の一種と定義した上で、コミュニケーションには自己開示が必要と述べましたが、これは経験知の集積を否定するものではありません。 なぜなら自己開示は関係を深めたい人にすればよい一方、自己呈示は私たちが社会の中で生きるためにせざるを得ないことだからです。 自己呈示と自己開示をうまく使いこなせれば御の字だと思います。
引用・参考文献
Jourard, S.M. 1971 Self-disclosure: an experimental analysis of the transparent self. N.Y.:Wiley-Interscience.
『女性が学ぶ社会心理学』 宗方 比佐子[ほか]編著 (1996) 福村出版